債務者の弁済資力が十分でなく、相手方資産がすぐにもなくなってしまうおそれがある場合、債権者が債務者に対して金銭の支払いを求める訴え提起をしたとしても、判決確定時に相手方の弁済資力がなくなってしまったときには、事実上、強制執行することができないことになり、勝訴判決を得る意味がなくなってしまいます。
そのようなときには、訴えを提起する前に、相手方の預金債権・給与債権・不動産などの資産が処分されて強制執行することができなくならないように、債権・不動産の「仮差押え」をする必要があります。
A「不動産占有移転禁止の仮処分」
たとえば、建物明渡請求において、賃借人が第三者に建物を又貸しする恐れがある場合、建物の明渡を求める訴えを提起したものの、裁判の審理中に、被告である賃借人が第三者に建物を貸してしまったときには、原告である家主は、改めてその第三者を被告として建物明渡の訴えを提起しなければなりません。
そのようなおそれのあるときは、訴えを提起する前に、賃借人に対して「不動産占有移転禁止の仮処分」をする必要があります。この仮処分を行っていれば、占有状態の現状が保全されますから、裁判中に賃借人が第三者に建物を貸してしまった場合でも、賃借人を被告とする勝訴判決によって第三者が事実上占有していても明渡の強制執行することができます。
B「不動産処分禁止の仮処分」
たとえば、土地の売買契約が無効であるとして登記名義人に対してする土地所有権登記移転請求において、登記名義人が登記を第三者に移す恐れがある場合、土地所有権登記移転請求の訴え提起をしたものの、裁判の審理中に、被告である登記名義人が登記を第三者に移してしまった場合は、原告は改めてその第三者を被告として土地所有権登記移転請求の訴えを提起しなければなりません。
そのようなおそれのあるときは、訴えを提起する前に、登記名義人に対して「不動産処分禁止の仮処分」をする必要があります。この仮処分を行っていれば、権利帰属状態の現状が保全されますから、裁判中に被告である登記名義人が登記を第三者に移すことできず、訴え提起の登記名義人を被告とする勝訴判決によって土地所有権移転登記手続の強制執行することができます。
上記のA、Bをあわせて「係争物仮処分」といいます。
上記の【1】【2】と異なり、裁判の実効性を確保するためではなく、争いのある権利関係について債権者に現に生じている著しい損害や急迫の危険を回避するための暫定的措置を得るための民事保全処分として、「仮地位仮処分」があります。 たとえば、マンションの建築工事差止め、抵当権の実行禁止、通行妨害禁止、インターネットのホームページへの掲載禁止、帳簿書類等引渡などの仮処分があります。
民事保全処分 | ||
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【1】仮差押え | ・動産仮差押え ・不動産仮差押え ・債権仮差押え |
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仮処分 | 【2】係争物仮処分 | A・占有移転禁止の仮処分 |
B・処分禁止の仮処分 | ||
【3】仮地位仮処分 |